インターネット言語学情報
          月刊『言語』大修館書店 2001年10月号掲載

言語相対論


 言語相対論 linguistic relativity とは、言語と人間の思考・文化の関係に関する仮説で、その源流はフンボルトに遡り、サピアとウォーフの言語観にその端的な表現を見いだすことができる。ウォーフの言語観は、彼のホームページ(http://www.mtsu.edu/~dlavery/Whorf/)に、主著 Language, Thought and Realityからの引用があり、手軽に知ることができる。言語相対論には「強い仮説」と「弱い仮説」とがある。「強い仮説」とは、「人間の思考は言語に規定される」というもので、「言語決定論」linguistic determinismと呼ばれることもある。「弱い仮説」とは、「概念の範疇化は言語・文化によって異なる」というもので、「言語相対論」というときは後者をさすことが多い。その事情はジュリア・ペン『言語の相対性について』(大修館書店)に詳しい。すでに過去にJ. J. Gumperz, S. C. Levinson (eds), Rethinking linguistic relativity, Cambridge UP, 1996という本があるが、最近この問題について、M. Putz, M.H.Verspoor (eds) Explorations in Linguistic Relativity, J.Benjamins, 2000 と、S.Niemeier, R.Dirven (eds) Evidence for Linguistic Relativity, J.Benjamins, 2000 という二冊の本が出た。どちらも1998年にドイツで開かれた同じシンポジウムの記録である。後者の書評はhttp://linguistlist.org/issues/12/12-1123.html#1で読むことができる。

 サイバー・スペースでも、言語相対論についてのサイトは数多い。最初にLinguistic Relativity Resouce Center (http://www.baylor.edu/~Erin_Greenawalt/relativity.html)を見てみよう。言語相対論の問題点の詳しい紹介とともに、著名な言語学者の賛成・反対意見が要約掲載されている。『言語を生み出す本能』(NHKブックス)の著者スティーヴン・ピンカーのように生得説に立つ研究者は、普遍主義に立脚している以上、サピア=ウォーフの仮説を頭から否定しているのは当然であろう。しかし心理言語学の分野でのカテゴリー化研究の第一人者エレノア・ロッシュのような研究者も、サピア=ウォーフの仮説には否定的であることがわかる。一方、レイコフのような認知言語学者は、この仮説に好意的であり、いみじくもそれぞれの言語観が言語相対論に対する態度に反映されていると言えよう。

 アメリカ言語学会のサイトにもLanguage & Thought (http://www.lsadc.org/web2/lg____thought.html) のページがあり、言語相対論とサピア=ウォーフの仮説の概略についてスロビンの執筆したいきとどいた解説を読むことができる。スロビンの言うように、われわれは外国語を学ぶとすぐ、外国語における「概念の切り取り方」が自分の言語とは異なる場合があることを実感する。この意味で「弱い仮説」は誰もがその正しさを感じている。ただそこからどこまで「強い仮説」に踏み込むかによって立場が分かれる。最大の問題は「強い仮説」を実験的に証明することが難しいという点にある。

 オレゴン州立大学のペデルセンのページには、「強い仮説」を検証するために積み重ねられてきた心理言語学的実験の数々が紹介されている(http://logos.uoregon.edu/uoling/faculty/pederson/396/LingRelHO.htm)。ロジャー・ブラウン『ことばともの』(研究社出版)でも触れられている Brown & Lenneberg "A study of language and cognition", 1954の色彩についての研究を始めとして、Kay & Kempton, Caroll & Casagrande, Lantz & Stefflre らの研究の概要が要約されている。色彩語の研究についてもっと知りたい人は D.Dedrick, Naming the Rainbow. Colour Language, Colour Science, and Culture, Kluwer Academic, 1998を参照されるとよいだろう。

 最後に Digital Debによる「言語相対論の唄」を紹介しよう(http://planettonasket.com/DigitalDeb/WOW/DebMusic/LiguisticRelativity.html)。こんな歌詞で始まる唄である。 "What you hear and what you see May not be the same to me, Linguistic relativity" メロディーを聴くことができないのが残念である。   (京都大学 / 言語学・フランス語学)

【補遺】
 雑誌本文で紹介しきれなかったサイトに次のようなものがある。
The Art of suggestion のサイト
  
http://venus.va.com.au/suggestion/sapir.html
Aber大学 D.Chandlerのサイト
  
http://www.aber.ac.uk/media/Documents/short/whorf.html
東海大学 朝尾幸次郎氏のサイト
  
http://www.lb.u-tokai.ac.jp/~koji/course/jseminar/notes18.html
富山商船高専 金川欣次氏の「海の色は何色?」
  
http://www.toyama-cmt.ac.jp/~kanagawa/umi.html