卒論制作に悩むすべての学生のための
 
  私家版 卒業論文の書き方

おことわり  この「卒業論文の書き方」は、京都大学総合人間学部の学生を想定して作ったものです。 最初の「卒業論文作成までの日程」など、他大学の条件とは異なる部分もあります。この点 ご注意ください。  
  目  次

 1. 卒業論文作成までの日程   1.1. 卒業論文指導教官の決定  3回生年度の1月末日までに、卒業論文の作成を指導する卒業論文指導教官 (チューター) を 決定する。指導教官の決定にあたっては、講座の教官と十分に相談すること。   1.2. 卒業論文題目届け  4回生年度の4月末日までに卒業論文の題目を決定し、教務掛に届ける。この時点で届ける題 目は、それほど詳細なものではなく、おおまかなものでよい。細かい点は後で変更することも 可能である。論文題目の届けにあたっては、指導教官と十分に相談すること。   1.3. 卒業論文中間発表  4回生年度の10月頃に、卒業論文の中間発表会を、本分野の教官と在学生の参加のもとに行 なう。この発表会は卒業論文の進行状況をチェックすることが主な目的であるが、発表会を通 じて下級生の人たちの卒業論文にたいする認識を深めることも目的としている。   1.4. 卒業論文の提出  締め切りは4回生年度の1月末日である。論文は以下に述べる書式と体裁を守って提出するこ と。   1.5. 卒業論文の審査会  4回生年度の2月3日〜2月18日の期間内に、卒業論文の審査会を公開で行なう。  
   
2. 卒業論文の書式   2.1. 書式と枚数  卒業論文は、手書きでもワープロ書きでもどちらでもよい。どちらにするかによって書式が 異なる。   2.1.1. 手書きの場合  手書きの場合は、400字詰原稿用紙を用い、本文・注・参考文献表を含めて、原則として50 枚程度とする。 横書き・縦書きは自由だが、欧文例を含む場合は、横書きの方が望ましい。  欧文は原稿用紙のひとマスに2文字入れること。   2.1.2. ワープロの場合  ワープロを用いて書く場合は横書きとし、A4版の用紙を用いること。レイアウトは横30〜35 字程度、縦は30〜35行程度が読みやすい。この基準に合わせて、字間・行間を調整する。本文 ・注・参考文献表を含めて原則として全体で20,000字程度にすること。文字サイズが選択でき るならば、12ポイントが読みやすい。   2.2. 表 紙  本文とは別に表紙を1枚つけること。表紙には最低限次の事項を記載すること。   (a) 卒業論文題名 (b) 入学年度 (c) 氏 名 (d) 指導教官名  このパンフレットの最後に表紙の見本をあげておくので、参考にすること。   2.3. ページ数  論文には本文に必ず通しページ数を付すること。ただし表紙・目次にはページ数はつけな い。   2.4. 目  次  論文には必ず目次を付ける。目次は表紙の次に置く。   2.5. 注  注を付ける場合には、本文の該当個所になどのように数字を打ち、その番号に当たる注を付 する。注は脚注 (本文の同一ページの下段に置く注)でも、尾注 (論文の末尾にまとめて置く注) でもよい。   2.6. 参考文献  論文作成に使用した参考文献は、論文の末尾にまとめて文献表として付すること。文献のス タイルは以下に述べる原則に従うこと。   2.6.1 和文文献の場合  a) 単行本の場合は、      著者 (出版年) 『書名』出版社    の順とする。書名は 『 』でくくる。    例 :    高見健一 (1995) 『機能的構文論による日英語比較 - 受身文、後置文の分析』     くろしお出版    b) 雑誌論文の場合は、     著者 (出版年) 「論文題名」『掲載誌』巻号、ページ数  の順とする。論文名は「 」で、書名は 『 』でくくる。ページ数には p. はつけない。     例 : 藤田知子 (1995) 「tant における程度・結果・比較」『フランス語学研究』      第30号、1-13.   2.6.2 欧文文献の場合  a) 単行本の場合は、     著者 (出版年) : 書名, 出版地, 出版社 の順とする。著者名は family nameを先に出し、first name はイニシアル1文字とする。書名はイ タリックにする。できなければ下線を付す。英語文献の場合は、冠詞・前置詞・接続詞などを 除いて、各単語を大文字で始める。フランス語文献の場合は、標題の最初の単語だけを大文字 で始める。   例 :   Jackendoff, R. (1993) : Semantic Structures, Cambridge, Cambridge, The MIT Press.    Chaurand, J. (1969) : Histoire de la langue francaise, Paris, PUF.    b) 雑誌論文の場合は、     著者 (出版年) :" 論文題名", 掲載誌, 巻号, ページ数 の順とする。論文名は " " でくくり、雑誌名はイタリックにする。できなければ下線を付す。ページ数には p. はつけない。標題の最初の単語のみ大文字で始める。   例 :   Coopmans, P. (1989) : "Where stylictic and syntactic process meet : locative inversion in English",     Language 65, 728-751   2.7. 本文中での文献への言及  本文中で文献に言及する場合は、特に必要のない限り、 Coopmans (1989) のように記する。 ページ数も必要な場合は、Coopmans (1989 : 730)のように記する。   例 :    この問題については、Coopmans (1989) でも指摘されているように...   2.8. 例 文  本文中で例文を用いる場合は、通しで頭に例文番号を付すること。     例 :  (68) a. Yesterday, I saw the play. b. I saw the play yesterday.  (69) a. The play, John saw yesterday. b. John saw the play yesterday.  他の論文から引いた例文には、原則として出典を示す。    例 :  (21) a. Some guests drank milk who had never drunk it. b. *Some guests drank milk who were visiting from Chicago. (中島1995 : 32)   2.9. 例文の容認度  例文の容認度を示す場合は、ふつう次の記号を用いる。   i) 非文法的な文には * をつける   ii) 容認度に疑問のある文には ? をつける   iii) 容認度に非常に疑問のある文には ?? をつける    例 :  (21) a. Who did you see a picture of? b. ?Who did you see the picture of? c. *Who did you see Johnユs picture of?    これ以外の記号を用いる場合には、論文中で記号の意味について説明すること。また容認度 の判定は誰の責任について行なったのかを明示すること。    例 :   i) 容認度の判定は Gueron (1981) による。   ii) 容認度の判定は筆者がたずねた4人のフランス人インフォーマントによる。   2.10. 引 用  本文中で他の著書・論文などから引用する場合は、原則として原文どおりにその言語を用い て引用し、引用の末尾に出典とページ数を明記すること。   例 : "To summarize the theory up to this point, the claim is that lexical entries stipulate their conceptual arguments (A-marking) but do not stipulate the syntactic positions to which the arguments link."                        (Jackendoff 1993 : 254)    ただし、英・独・仏以外の言語で書かれた文献から引用する場合には、原文の引用と並んで 自分の訳を添えること。  参考文献として翻訳書を使用した場合は、日本語で引用し、訳書のなかの出典箇所を示すこ と。    例 :   「ある人々にとっては、言語は、つきつめてみれば、ひとつの用語集にほかならない。   いいかえれば、もののかずに相当する名称の表である。」(Saussure 1975 : 訳書95ページ)    数行にわたる引用は、本文とのあいだを1行あけ、左端を引用全体にわたって数文字分下げ て引用する。引用は " " または「 」でくくる。  短い引用は本文中に " " または「  」でくくって、特に改行せずにそのまま引用し、( ) に入れて出典を示す。     例 :   ソシュールは「能記を所記に結びつける紐帯は、恣意的である」(Saussure 1975 : 訳書   98ページ) と述べている。    引用は原著どおりに表記するのが原則であるが、旧漢字・旧かなづかいは新漢字・新かな づかいにあらためてもよい。  引用は論旨に必要な最低限にとどめること。   2.11 論文要旨  日本語以外の言語で卒業論文を書いた場合は、400字詰原稿用紙4枚程度、ワープロの場合は A4版用紙1枚程度の、日本語による論文要旨を添付すること。   2.12. 綴じ方  論文は綴じて提出する。縦書き原稿用紙の場合は、右端で綴じる。横書き原稿用紙の場合は 、上を綴じる。ワープロでA4版用紙を用いる場合は左端または上を綴じる。市販のバインダ ーを使ってもよいし、簡易製本キットを使ってもよい。  
   
3. 卒業論文を書くまで    卒業論文は大部分の学生にとっては、初めて書く「論文」であることが多い。在学中に書く 「レポート」と「論文」とは、量の点でも質の点でも大きな違いがある。「レポート」を書く つもりで卒業論文を書くと、大きなまちがいを犯すことになる。卒業論文を書くにあたっては 次の注意を参考にしてもらいたい。   3.1. 「論文」と「レポート」のちがい  レポートと論文の根本的なちがいは、レポートは自由なテーマまたは指定されたテーマにつ いて参考文献などを調査したことを「まとめた」ものであるが、論文は特定のテーマについて 「論じる」ものであるという点にある。  もう少し詳しく説明しよう。たとえば、学年末のレポートに「世界で言語紛争が起きている 地域とその実状を調べる」という課題が出たとする。参考文献としての単行本や雑誌記事・新 聞記事などを調べて、紹介されている内容を取捨選択して、まとめればレポートとしては及第 である。  しかし、これでは論文にはならない。なぜならば自分で問題を設定して、それを「論じて」 はいないからである。論文にするためには、参考文献の内容を取捨選択して「まとめる」だけ ではだめである。「論じ」なければならない。「論じる」とは、自ら新しい問題を設定し (も しくは古くからある未解決の問題を再び取り上げて)、その問題を解決するべくさまざまな論 拠を示しながら、結論へと導いていく一連の知的操作をいう。   3.2. 問題の設定  論文を書くにあたって、最も重要なのは「問題の設定」である。明確に問題が設定されてい ない論文は論文とは呼べない。書いたものが単なる「感想文」になるかそれとも「論文」にな るかの分かれ目はここにある。問題がうまく設定できれば、論文はもう半ば書けたも同然と言 ってよいであろう。  では具体的にはどのように問題を設定すればよいであろうか。以下に架空の具体的なケース を示す。    【事例 1 】  講義でフランス語の受動態について学んだ。その折りに、フランス語には受動態とならんで 「代名動詞の受動的用法」があることを知った。ともに受動的な意味を表すとすれば、ふたつ は同じものなのだろうか。それとも何か機能の分担があるのだろうか。この点に興味を持って 卒業論文で取り上げてはどうかと考えた。先生に相談したところ、このテーマには十分な参考 文献があり、論じるべき問題もまだ残っているということだった。こうしてできた卒論題目は 「フランス語の受動文と代名動詞構文の機能の比較」である。    【事例 2 】  フランス語を学んで初め不思議に思ったのは、名詞に男性と女性の区別があることである。 人間や動物に性の区別があるのは分かるとして、無生物にも性の区別があるのはどうしても 納得できない。性の区別は本当に言語の働きにとって必要なものなのだろうかという点に疑問 を持ったので、卒業論文で取り上げようと思った。しかし、先生に「このテーマは卒論で取り 上げるにはちょっと大きすぎるし、先行研究に意味のあることをつけ加えるのは難しい」と言 われたので、別の問題にすることにした。    【事例 3 】  英語では the other true poetsとは言えても *the true other poetsとは言えないとか、the tall grey towerはよいが*the grey tall towerはだめというように、形容詞の順序に一定の制約があること を知った。先生には「古典的問題ですでに論じ尽くされた感もあるが、最近の認知言語学の 観点から考え直すとおもしろいことが言えるかも知れない」と言われた。そこで「英語の付 加形容詞の順序の制約について」というテーマで卒論を書くことにした。    問題は自然に湧いて来るものではない。授業の内容を深く考えたり、自分で本を読んだりし て、素朴に生じた疑問を発展させて、それを言葉にしたものである。ここでは特に「疑問を持 つ」ということの重要性を強調したい。「なぜこうなっているのか?」という疑問はすべての学 問の基礎である。普段から言葉の問題について、疑問を抱くような態度で接することが大事で あろう。  もちろん自分だけでは、考えた問題が卒業論文として適当か判断できない場合もある。その 時は講座の教官に遠慮なく相談してもらいたい。   3.3. 先行研究の調査  さて問題が設定できたら、次に行なうことは先行研究の調査である。自分の考えた問題がも うすでに十分に論じられていて、これ以上何もつけ加える余地のないものだとすると、卒業論 文で取り上げる意味がないことになる。新事実でも発見できない限り、論文にはならないだろ う。  逆に自分の考えた問題について、先行研究が非常に少ない場合も、卒論が書きにくくなる。 自分が考えるにあたって参考にできるものが少ないと、すべて自分の頭で考えなくてはならな くなり、卒論レベルではややつらいことになろう。  自分の設定した問題について、今までにどこまで明らかになっていて、どこからがまだ解明 されていないかを知るためには、先行研究を調査しなくてはならない。論文を実際に書く場合 、最初に作成するのは「前書き」でも「本文」でもなく、論文の末尾に置かれることになる 「参考文献一覧」であるのはこのためである。  さて先行研究を調査するには、ある程度の技術が必要である。どのようにして先行研究にた どり着けばいいかを以下に示す。   3.3.1. 読んだ論文の参考文献表からたどる  とりあえず自分のテーマに関する論文をひとつでも見つければ、その論文の末尾に参考文献 リストが示されているはずである。そのなかから興味を持った論文を探し、その論文から他の 論文を探すというように、芋蔓式に関連論文を集めて行く。この方法はいちばんリスクが少な く確実な方法と言える。   3.3.2. 文献書誌情報を利用する  言語学の特定のテーマについての文献リストを示した書誌情報リソースには、次のようなも のがある。 ・『海外言語学情報』1〜8巻、大修館書店   音韻論・統語論のように、分野別にその年の重要な研究を紹介し、文献情報を掲載したも の。近  年の研究動向を把握するには重宝である。 ・『例解現代英文法事典』、大修館書店   具体的な例文をもとに、言語学の様々な問題を概説し、参考文献をあげている事典形式の 本。研  究テーマを探す場合にも利用できる。 ・『現代英文法辞典』三省堂 ・『新英語学辞典』研究社 ・『現代英語学辞典』成美堂   上記3点は辞典であり、用語から検索して、参考文献をたどる場合に利用する。 ・『フランス語学研究』1〜30号   日本フランス語学会の機関誌。巻末に「海外雑誌論文目録」という記事があり、めぼしい 雑誌論  文の書誌情報がリストされていて役に立つ。   3.3.3. 学術情報センターの情報を利用する  文部省の学術情報センターは、日本全国の大学の研究者の論文データバンクを管理しており 、内容は毎年更新されている。要するに日本の大学の先生が過去に書いて発表した論文がすべ てリストアップされているのである。  データはキーワードで検索できる。例えば、「フランス語」「冠詞」というふたつのキーワ ードで検索すると、フランス語の冠詞について今までに書かれた論文の書誌情報がリストとな って取得できる。網羅的に情報を集めたい場合には非常に役に立つ。  このサービスは総合人間学部図書館のカウンターで申し込む。有料なのであらかじめ指導教 官に申請書を作成してもらう必要がある。   3.3.4. 関連雑誌のバックナンバーを見る  自分の選んだテーマに関係の深い学術雑誌のバックナンバーを見て、めぼしい論文にあたり をつけるという方法がある。雑誌が図書館の書庫に入っている場合、学部学生は書庫への出入 りを認められていないので、とりあえず10年分ぐらい閲覧申込をして、図書館の閲覧室でしら みつぶしに見るのがよい。雑誌によっては、5年ごとや10年ごとに、過去の掲載論文の一覧表 を作っているものもあるので、それを利用する手もある。   3.3.5. 図書館のCD-ROMによる検索  総合人間学部図書館には人文系の学問分野についての、論文データ・ベースがCD-ROMで用 意されている。対象は英語など欧米言語による学術雑誌である。利用は無料なのでいつでも利 用できる。使い方はカウンターでたずねれば親切に教えてもらえるので臆せずにトライしよう。   3.3.6. 指導教官に相談する  最後は自分の指導教官に相談するとよい。先生はその道のプロである。たいていの文献は知 っている。またたくさん文献がありすぎるときも、どれから読めばよいのか判断しかねる場合 もある。そんなときも先生に相談するのが時間をロスしないいちばんの方法である。     3.4. 先行研究を精読する  このようにして集めた先行研究を読むことから始めなければならない。その内容を理解して 、自分の選んだテーマについては、今までにどのようなことが明らかになっていて、どのよう なことがまだ未解決かを把握することが重要である。  論文はただ読んだだけでは利用できない。読みながら自分の論文に利用できるような形に内 容を加工する必要がある。具体的には次のような作業をすることになる。   3.4.1. データの収集  言語学の論文には用例がつきものである。自分が読んだ論文のなかであげられている重要な 用例は、メモしておきのちに利用する。その際に出典を明記しておかないと、あとで利用する ときに、また論文をあたまからひっくり返す羽目になるので注意すること。   3.4.2. 論文の要旨の把握  自分の読んだ論文が何を主張しているかを理解し、その要点をまとめておく。論文のなかで 重要と思われる部分を自分の言葉にして、メモしておくとよい。その際に自分が感じたことも いっしょにメモしておくと後で参考になることが多い。   3.4.3. 引用箇所  論文のなかで特に重要と思われる部分は、のちに自分の書く論文のなかで引用する事になる かも知れないので、メモしておく。その際に出典を明記しておくこと。   3.4.4. 疑問点をあげる  いちばん大事なのは、先行研究を読んでいて自分が感じた疑問点をメモしておくことである 。「この点は前に読んだ論文とはちがう」とか、「この説明では自分の知っているこの例が説 明できない」などという疑問点は、自分の論文の骨子になる重要な点である。   3.4.5. どのようにメモしておくか  論文を書く予備作業は、一言で言えば「情報の検索と蓄積」である。このためには、蓄積し ておく媒体が必要である。媒体には次のようなものが一般的である。   ・大学ノート   もっとも初歩的なタイプだが根強いファンが今でもいる。この方法の利点は、ひとつの論 文に関する情報がシリアルにまとまってメモされるので、あとで振り返るときに筋道を立てて 追いやすい点。欠点は特定の箇所を簡単に検索できないという点と、知的生産の要である「情 報の並べ換え」ができないという点である。   ・京大式カード  民族学者梅棹忠夫氏の創案になるB6版の情報カードにメモする。キーワードによる分類をし ておけば、あとで検索と並べ替えが容易だという大きな利点があり、この方法を採用している 人がいちばん多いだろう。携帯性にも優れている。  最大の欠点は、枚数が増えると探しているカードがどこに分類されていたかがわからなくな る点であろう。しかし卒論レベルでは書くカードの数も知れているので、この方式は勧められ る。   ・パソコン利用  最も進んだ媒体。パソコンのデータベースソフトを利用して情報を蓄積する。この利点は 、いざ論文を書く場合に、蓄積した情報を書き移すことなくそのままパソコン上で利用するこ とができるということである。欠点としては、図書館などに持ち込めないという携帯性の面と 、電源を入れて立ち上がるまでに時間がかかるという点だろう。ちょっとメモしたいようなと きには向かない。    「知的生産」については、数え切れないほどの文献がある。ここでは参考になりそうなもの にしぼって紹介しておく。   ・梅棹忠夫 (1969) 『知的生産の技術』岩波新書  その後続々書かれた知的生産本の嚆矢である。この本を読んで勧められるままに京大式カー ドを大量に購入した人は多い。今でも読者の多い本である。   ・立花 隆(1984) 『知のソフトウェア』講談社現代新書  かの有名な立花隆の知的生産のハウツー物。どちらかというとジャーナリスト向けに書かれ ているので、学術研究にはいささか合わない面もある。   ・加藤秀俊(1963) 『整理学』中公新書   ・山根一眞(1989) 『情報の仕事術 2 整理』日本経済新聞社   ・野口悠起雄 (1993)『「超」整理法』中公新書  上記3点は主として情報の整理に力点を置いた解説書。大学ノート派には御用はないが、カ ード式以上の実行者には参考になる。   3.5. 先行研究を批判的に検討する  先行研究の調査が論文作成につながるためには、先行研究の批判的検討が必要である。先行 研究の内容をただまとめただけでは、レポートにはなっても、論文にはならない。論文にする ためには、自分の論点をたてなくてはならない。そのためには、次のような作業が必要である 。   3.5.1. 内容に疑問を持つ  先行研究を読んでいて、「これはおかしい」という疑問を持つことが学問の一歩である。ど んな論文を読んでも、ひとつぐらいはおかしいと感じることがあるはずである。論旨の矛盾・ あげられた実例の不自然さなどに注意して論文を読む態度が必要である。   3.5.2. 先行研究どうしの相違点に注意する  複数の先行研究を読んでいると、おたがいにちがう主張をしている場合がよくある。という より、おたがいにちがう主張をしている方が普通である。主張の異なっている点は、とりも直 さずそのテーマの問題点の核心である。おたがいの主張の異なる点を比較計量し、どちらの主 張がより妥当であるか、またおたがいの相違点をより高次のレベルで統合するためには、どの ように主張に変更を加えればよいかを考えなくてはならない。   3.6. 用例を集める  言語研究の基礎となるのは用例である。他人の論文の主張を批判する場合には、その主張で は説明できない用例を引くことが有効である。このためには先行研究であげられている用例だ けではなく、自前の用例を持つことが必要になる。自前の用例を持つには次のような方法が一 般的である。   3.6.1. 新聞・雑誌記事・文学作品などの調査  新聞・雑誌記事・文学作品などから適当なものを選び、たとえば「受動文」に目を付けて該 当する文を抜き出してメモしていく。時間はかかるが確実な方法である。   3.6.2. 電子化されたデータ・ベースを用いる  新聞・雑誌記事・文学作品などで電子化されてCD-ROMなどで供給されているものが存在す る。多くはコンピュータで検索するようになっているので、最低限のコンピュータの利用知識 が前提となる。電子化されたデータ・ベースには次のようなものがある。   3.6.2.1. 英語 ・Gutenberg Project のデータ・ベース Walnut Creek社からCD-ROMが販売されている他、インターネットでアクセスすることも可能 である。 ・Cobuild のデータ・ベース Cobuild英英辞典のもとになったデータ・ベースで、インターネットからの利用が可能である。 ただし有料。  その他のデータ・ベースについては、次の文献を参考にするとよい。 ・月刊『言語』Vol.25, No.10 (1996) 特集「ザ・ガイド ことばにアクセス」 ・筒井 脩『英語学習のためのCD-ROM入門』大阪教育図書   3.6.2.2. フランス語  最大のデータ・ベースは、INALF (Institut National de la Langue Francaise) の収集したFRANTEX Tであるが、日本からのアクセスは制限を受けているので、そのダイジェスト版であるDISCOT EXTが簡便である。フランス語中央室と東郷研究室でいつでも使える状態になっている。19世 紀を中心として、1920年までの文学作品が収められており、さまざまな条件で検索できる強力 なツールである。   3.6.3. native speakerをinformantとして使う  特定の問題について論じる場合には、既存の用例ではどうしてもカバーできないことが多い 。自分で作例してnative speakerにたずねる必要が生じる。その場合、どのような点にポイント を置いて作例するか、またnative speakerにどのような形でアンケートするかなど、細かい点で 注意すべきことがある。ここでは詳しく述べることはできないので、指導教官に相談するとよ い。  
   
4. 卒業論文を書く    さて、準備作業が終わったら、実際に卒業論文を書く場合の注意に移ることにする。以下に 説明するのは標準的な論文の書式である。   4.1. 論文を書く心構え 4.1.1. 読者を想定する  論文を書く場合に最も大事なことは、自分の論文を不特定多数の人が読むのだということを 常に念頭に置いて書くということである。  これが日記ならば、自分にだけ解ればよい。暗号でもよかろう。親しい相手への手紙ならば 、仲間内だけで通用するような言い回しを使っても通じるだろう。しかし、不特定多数の読者 を想定する論文ではそうはいかない。だれにでも理解できる言葉と論理構成を用いて書かなく てはならない。要するに、「ひとりよがり」になってはいけないのである。   4.1.2. 読者を説得する  論文とは特定の問題について自分の主張を述べるものである。自分の論点を明確にし、論理 的に話を進めることで、読者を納得させるものでなくてはならない。論文が単なる感想文やレ ポートと違うのはこの点である。この意味で、単なる個人的感慨や断定的口調は論文には好ま しくない。また自分が調べたことを単に羅列するだけでも、読者を説得することはできない。   4.1.3. 論拠をあげる  自分の主張を声高に述べるだけでは読者を説得することはできない。自分の主張を裏付ける 論拠をあげなくてはならない。読者はあげられた一連の論拠を吟味することで、初めて著者の 主張がどの程度妥当なものかを判断するのである。  論拠としては様々なものが考えられる。誰それの本にこう書いてあったからというのも論拠 のひとつになるうる。しかし、本に書いてあることが全部本当のこととは限らない。自分と同 じことを考えている人が他にもいるということは、その主張を補強するものにはなりえても、 主要な根拠にはならない。  論拠として最も重要なものは、客観的に検証できる事実である。言語学の論文における事実 とは、観察された言語現象である。観察された言語現象とは、「英語では実際にこのように発 音している」とか、「このような文が実際に用いられているのが見つかった」とか、「作例を テストしてみたら、native speakerはこういう判断を示した」などというものをさす。このよう な論拠が十分に積み重ねられて、初めて論文は説得力を持つことになる。   4.1.4. 言葉を定義する  論文には専門用語が付き物である。ある程度の専門用語は自明のものとして使ってよい。た とえば、「文」sentenceとは何かから定義していては、論文は書けないだろう (もちろん文とは 何かを中心的テーマとする論文は別である)。  しかし専門用語のなかには、学者によって用法や意味が異なるものもあり、自分がどの意味 で使っているのかを定義しなくてはならないこともある。一例をあげると、「主題」theme、 「焦点」focus といった概念は、学者によって意味がかなり異なっている。自分がこのような 用語を論文のなかで用いる場合には、自分の定義を示すことが望ましい。  外国語の専門用語で定訳のないものは、そのまま言語で使ってもよい。    例 : saliency, dominance, communicative dynamism, etc. しかし一般に流通している定訳のあるものは、なるべくそれを使用する    例 : transitivity 他動性、relevance 関連性、cohesion 結束性、etc. どこまで通用しているか自信がないときは、原語と訳語を併記するとよい。   4.1.5. とにかく書いてみる  あれこれ考えるだけでなかなか論文が書けないという人がときどきいる。そういうときには 、とにかく書ける部分から書き始めることが大切である。  頭で構成を考えられるのはほんの数頁の文章に限られる。どんなに訓練を積んだ書き手でも 、長い論文の最初から最後までを頭のなかだけで構想できるものではない。必要なのは「書き ながら考える」という姿勢である。書き進むことで問題意識がはっきりしたり、自分の考えて いたことの欠点があきらかになったりするものである。論文の構想はその時点で変化をとげて 、新しい局面に入っていく。論文を書くということは、書いては考え直し、書き直しては考え という作業の繰り返しである。腕組みして考えてばかりいては、一歩も先に進まない。とにか く書いてみることが大切である。   4.1.6. 部分的に書く  大長編の論文をいきなり頭から書くのは難しい。論文はいくつかの部分から構成されている 。そしてそれぞれの部分はそのなかで、問題の設定・検討・結論という構成になっていなくて はならない。つまりひとつの論文とは、小論文が有機的に結合して全体を構成しているものと いってもよい。言い換えれば、論文とはパーツでできているのである。  それぞれのパーツはひとつの問題を扱っているものでなくてはならない。従ってまずパーツ から書き始めるのがよい。ひとつのパーツに含まれる問題の広がりは限られたものなので、書 き出す場合にそれほど肩に力がはいらなくてすむだろう。   4.1.7. 人の意見と自分の意見を区別する  自分が読んだ先行研究などの文献に書かれていたことを、自分の論文のなかで持ち出す場合 に、人の意見と自分の意見とをはっきりと区別することが必要である。はっきりと区別しない と論文の盗用になる。これは厳に慎むべきことである。  人の意見は、それに反論する場合、または自分の主張の補強して用いる場合に言及するのが 普通である。むやみに長々と人の論文の内容を紹介したり引用したりしてはいけない。   4.1.8. 推敲する  とりあえず論文を最初から最後まで書きあげたら、それは第1稿ということになる。第1稿は ふつうはさまざまな欠点を含んでいるものである。第1稿を書き上げたら、次にそれを読み返 して、余分な部分を削り、不十分な部分を追加し、全体の流れを調整するという推敲の仮定が 必要である。よい論文になるかどうかはこの推敲で決まるといってもよい。  最初に書き上げた論文は「水膨れ」状態にあることが多い。筆に任せて書くと、ついつい余 分な事を書きすぎるものである。自分の論旨にとって何が必要なのかを厳選し、文章を削る作 業が必要である。これによって水膨れしていた文章が、余分な水分を絞り取られてきりっと引 き締まってよい文章になるのである。   4.1.9. 草稿段階で指導教官に見せる  論文はいきなり「出来ました」といって提出するものでない。途中の草稿段階で指導教官に 見てもらい、内容について指導を受けなくては決していい論文にはならない。指導教官は論文 の内容について、問題の立て方・論旨の展開・資料の裏付けなど、さまざまな点からアドバイ スを与えてくれるだろう。指導教官の意見に基づいて推敲を重ねて論文は完成する。     4.2. 論文の構成 4.2.1. 章立て  ある程度の長さの論文というものは、必ずいくつかの章に分けなくてはならない。各章には その内容を示す小見出しをつけることが望ましい。  章分けの実例をあげよう。いずれも原稿用紙にして40枚程度の長さの論文である。   【実例 1】     東郷雄二・大木 充 (1986) 「フランス語の主語倒置と焦点化の制約・焦点化のハイエ   ラキー」、『フランス語学研究』第20号、1-15.     1. はじめに   2. 倒置主語は焦点を表すか   3. 焦点化の制約   4. 焦点化のハイエラキー : 文法関係   5. 焦点化のハイエラキー : 動詞との結びつきの強さ   6. その他の焦点化のハイエラキー   7. 結論   [注]   [参考文献]    この例は標準的な章立てである。最初に「はじめに」で手短に問題の設定をして、本文を 5つの章に分け、最後に「結論」で締めくくっている。   【実例 2】     春木仁考(1986) 「指示形容詞を用いた前方照応について」、『フランス語学研究』第20号   16-32.     0. [小見出しなし]   1. 同一名詞を受ける ce N と le N 1.1. Corblinの仮説 : 対比 1.2. 指示対象 referentの唯一性 1.3. 指示対象としての安定性 1.4. discours の連続性と ce N 1.5. 取り立てとextraction   2. 修飾要素を持つ先行Nの反復   3. 同一名詞を含まないce Nによる反復 3.1. ce Nと分類操作 3.2. 異なる名詞による反復 3.3. 出来事・事柄を受ける用法   4. 問題点   5. 結論   [注]   [参考文献]    この例は[実例 1]に比べて、より細かい章立てになっている。0. でまず問題を設定し、全体 を4つの章に分け、それぞれの章をさらに小さな節に分けている。このように全体を細かく節 にまで分けるのは、だらだらとした文章を書かないためには必要なことである。    このような章立てを論文の「論理構成」と呼ぶこともある。論文の生命はその「構成」に ある。内容的にはよいことを述べていても、全体の構成が悪ければ論文としての価値は低く なるし、読む人に正確に理解してもらえないことがある。  構成の各部について以下順に解説する。   4.2.2. 問題の設定  論文の始めでは、これからどういう問題を扱うかということを設定する必要がある。問題 を簡潔に提示し、その問題についてどのような先行研究があるかに言及するのが普通である。 ただし、先行研究がかなりの分量にのぼり、また先行研究の比較検討が自分の論文にとって重 要な意味を持つ場合には、冒頭の問題の設定のあとに、章を改めて「先行研究の検討」を行な うのもよい。  問題の設定にあたっては、自分がなぜその問題に興味を持つに至ったかに触れるのもよいだ ろう。また「はじめに」の部分で、論文のおおまかな流れを示しておくのも読者の理解を助け ることになる。   4.2.3. 論文本体  本体ではあつかう問題の性質に応じて、適当な数の章や節に分けて、問題を論じていく。こ の章立て (論理構成) は、論文の要といってもよい。読者を説得するためにだけではなく、自分 の問題意識をはっきりさせるためにも、本体はいくつかの部分に分けなくてはならないことは すでに述べた。  論文を書き進めるにしたがって、当初考えていた論理構成が変わってくることが多い。何度 か書き改めるに従って、最終的に最も適切な形に落ちつくものである。   4.2.4. 結論  論文には結論がなくてはならない。結論の部分では、今まで書き進んで来た論文のなかで自 分が主張したこと、明らかになったことを、全体を俯瞰する視点からまとめる。また自分が解 明しきれなかった問題、論文の中では扱いきれなかった問題などを指摘し、できれば将来の展 望を示して締めくくることが望ましい。  「結論」は「おわりに」としてもよい。   4.2.5. 注 4.2.5.1. 何を注にするか まったく注がなくても論文としては成り立つが、ふつう論文には注をつける必要が出てくるも のである。注には大きく分けてふたつの種類がある。   4.2.5.1.1. 本文の内容を補足する注  論文の本文であまり細かい問題に言及すると、全体の論旨が混乱することがある。話の筋が あっちに行ったりこっちに行ったりすることは、論文では避けるべきである。このため、本文 の中心的な論旨には含まれないが、関連する枝葉にあたる事項を注に回すことがある。   【実例 1 】  (本文)  このように会話フランス語では、左方転位も右方転位も予想以上に多用されることがわ かる 注1)。     注 1) フランス語に較べて英語では転位構文をそれほど多用しないようである。よく似 た言語構造を持つこのふたつの言語で差が見られることは興味深いが、本稿ではこの点 についてはこれ以上触れない。   【実例 2 】 (本文)  日本語の「僕はウナギだ」といういわゆるウナギ文は、ふつうフランス語では 同じような構文で表現することはできない。レストランでウナギを注文するならば、 Moi, je prends des anguilles.と言わなくてはならない 注2)。     注 2) ただし、フランス語でも Moi, je suis plutot chien. 「僕はどちらかいうと犬好きの   ほうだね」という言い方をするようである。しかし日本語のウナギ文に較べて使われ   方ははるかに限定されている。   4.2.5.1.2. 用語や引用の典拠に関する注  自分の論文中で用いた専門用語や、引用した先行研究などについて、必要に応じて、その典 拠に関する注を付けることがある。   【実例 1 】 ce livreなどのような名詞句によって談話に導入される指示対象をdiscourse referent 注1)と呼ぶ 。  注 1) discoures referentはKarttunen (1977)の用語である。Prince (1981) は同じものを discourse   entityと呼んでいる。   【実例 2 】  (論文中の引用箇所)  Jonsonユs Hypothesis   The subjects of unergatives, but not of transitive verbs, are not Blocking Categories after    S-structure. 注3) (Johnson 1986)     注3) Johnson (1986) は未刊行博士論文であるため、実物を参照することができなかっ   た。この引用は Takami & Kuno (1992) のなかに引かれていたものである。   【実例 3】  ソシュールは『一般言語学講義』の最後で次のように述べている。「言語学の独自・  真正の対象は、それじたいとしての・それじたいのための言語である。」注4)     注4) 今日ではこの部分は、Cours de linguistique generaleを編集した BallyとSechehaye  が創作したものであることが、Englerらの研究によって明らかになっている。本稿では  その事実を踏まえた上で、刊行された形でのCLGが言語研究に及ぼした影響を問題に  している。   4.2.5.2. 注の書式  2.5.ですでに述べたように、注の形式にはふたつある。横書きの場合、本文ページの最下段 に置く脚注と、注を全部まとめて論文末尾に置く尾注のふたつである。  手書きの場合は脚注は技術的に難しいので、尾注を用いるのがふつうである。ワープロや パソコンの場合で、自動的に脚注を作成する機能があるときは、脚注を用いてもよい。その場 合、脚注は本文よりも小さなポイントの文字を用いる。   4.2.5.3. 注でよく用いられる省略記号 1) Ibid.  同一文献について、注で連続して複数回言及する場合に、二度目以降の注で「前掲書」の意 味で用いる。ラテン語のibidemの略で「同一箇所」の意味。イタリック体でIbid. とする。 2) op. cit.  これも「前掲書」の意味で用いるが、Aいう書物に言及し、つぎはBという書物に言及し、 またAに再び言及するときに用いる。ラテン語のopere citato「引用された作品」の略。必ず Saussure, op. cit., p.205のように著者名とともに用いる。イタリック体にする。 3) passim  「到る所に」の意味。Saussure (1916) p. 235, passim とあれば、論文中での言及に該当する 箇所があげられた書物の235ページの到る所に見られるということを意味する。また p. 235 et passim とあれば、235ページを初めとしてその書物の他の場所にも散見されるということを意 味する。イタリック体にする。 4) cf.  ラテン語 confer の略で「参照せよ」の意味。注で cf. Haiman (1985) とあれば、その書物を参 照せよということを意味する。   4.2.6. 参考文献 4.2.6.1. 参考文献に何をあげるか  厳密に言えば「引用文献」と「参考文献」とは異なる概念である。「引用文献」は本文中で 引用した文献を指すが、「参考文献」は本文中で引用したり言及したりした文献だけでなく、 論文を書く際に参考にした文献すべてを含む。  学術雑誌などに掲載する論文の場合は、本文で直接言及した文献だけをあげ、やたらに参考 文献を列挙しないのがふつうである。しかし、卒業論文は学術論文ではなく、大学での4年間 の勉強の成果を示すという目的があるので、参考文献には本文で直接言及した文献だけではな く、論文を書くときに目を通した文献をすべてあげることが望ましいだろう。指導教官もそれ によって学生がどのような文献にあたって勉強したかを知ることができる。  参考文献には、一般的な辞書・百科事典のようなものはあげない。また全部読んだ書物だけ でなく、部分的に目を通して参考にした書物もあげてかまわない。  また用例を収集するために目を通した新聞・文学作品・映画のシナリオなどは、参考文献と は別に「用例出典」としてあげておくのがよい。   4.2.6.2. 文献の配列  欧文の参考文献は著者 (編者)の姓の頭文字のアルファベット順に並べるのがふつうである。   実例 : Antinucci, F., A. Duranti, et al. (1979): "Relative clause structure, relative clause perception, and the    change from SOV to SVO", Cognition 7, 145-176. Bally, Ch. (1932) : Linguistique generale et linguistique francaise, Berne, Franke Bever, T. G. and D. T. Langendon (1971): "A dynamic model of the evolution of language",Linguistic   Inquiry 11, 433-463. Blinkenberg, A. (1928) : L'ordre des mots en francais moderne, Copenhague, Levin & Munksgaard    文献が2行以上にわたる場合は、2行目以下は頭を少し下げるのが望ましい。同一著者の文献 が複数ある場合は、出版年の古いものを先に出し、著者名の2つ目以下は、名前のかわりに長 い横線を用いることが多い。   実例 : Firbas, J. (1964) : "On defining the theme in functional sentence analysis", Travaux de linguistique de  Prague 1, Alabama, University of Alabama Press, 267-280. -- (1966) : "Non-thematic subjects in contemporary English", Travaux de linguistique de Prague 2,   Alabama, University of Alabama Press, 239-256    欧文文献と和文文献とが混じっているときは、まず欧文文献リストを姓のアルファベット順 にあげ、次に和文文献リストを姓のアルファベット (またはアイウエオ順) にあげる。和文文献 の方が数が多い場合には、順序を逆にしてもよい。   4.2.6.3. 共著、編者の場合  共著で複数の著者がいる場合には、原則として本の表紙や雑誌の目次の順序どおりにあげる 。英語文献の場合は、ふたりの著者の間は and で結ぶ。フランス語の文献の場合は et で結ぶ。 一人目の著者名は family name - first nameのイニシアルの順で、二人目の著者名はfirst nameのイ ニシアル - family nameの順序にする。   実例 : Bever, T. G. and D. T. Langendon (1971): "A dynamic model of the evolution of language", Linguistic   Inquiry 11, 433-463.    著者が3人まではすべての著者名を連記するが、4人以上の場合は一人目の著者のみをあげ、 et al. (ラテン語の et alii 「およびその他」の略) とする。   実例 : Antinucci, F. et al. (1979): "Relative clause structure, relative clause perception, and the change from   SOV to SVO", Cognition 7, 145-176.    欧文文献の編者は氏名のあとに (ed.)をつける。編者が複数の場合は (eds.) とする。   実例 : J. Fisiak (ed.) (1984) : Historical Syntax, Amsterdam, Mouton. Lantolf, J. P. and G. B. Stone (eds.) (1982) : Current Research in Romance Languages , Indiana   University Linguistic Club.    和文文献の場合は著者が複数いる場合の出し方には、欧文ほど決まった形式がない。ここで は欧文にならって、3人までは連記し、4人以上は最初の著者他とする。日本人の著者名は姓名 を略さずに書く。   実例 :  石綿敏雄、高田誠 (1990) 『対照言語学』おうふう  田中春美他 (1994) 『入門ことばの科学』大修館書店    編者の場合は姓名のあとに 編と書く。   実例 :  今井邦彦編 (1986) 『チョムスキー小事典』大修館書店    編者が人名ではなくグループ名の場合は、そのグループ名をあげる。   実例 :  つくば言語文化フォーラム 編 (1995)『「も」の言語学』ひつじ書房   4.2.6.4. 単行本の一部の文献  参考文献が複数の著者が寄稿した単行本の一部の場合は、まず引用文献の標題のみを " " でくくってあげ、続けてその文献の掲載された単行本を書き、最後に引用文献の掲載ページ数 を記する。   実例 : Prince, E. F. (1981) : "Toward a taxonomy of given-new information", P. Cole (ed.) Radical Pragmatics, New York, Academic Press, 223-255.   4.2.6.5. 未刊行の学位論文  参考文献が未刊行の学位論文のときは、欧文では標題を " " で、和文では「 」でくくり、 そのあとに学位論文の種類を示して、提出された大学名を記する。   実例 : Johnson, K. (1986) : "A Case for Movement" , Ph.D. diss., MIT 佐藤淳一 (1991) 「フランス語不定詞構文の文法機構について」修士論文、獨協大学   4.2.6.6. 出版年  単行本は初版以後版を重ねて何度も刊行されることがある。その場合、原則として自分が参 考にした版の刊本をあげる。 Saussure, F. de (1975) : Cours de linguistique generale, Paris, Payot 上記の本は初版が1916年であるが、現在流布しているのは Turio de Mauroが編集し詳細な注を 付した改訂新版である。    また自分の参照した版が第何版かがわかる場合はそれも示す。 Comrie, B. (1990) : Language Universals and Linguistic Typology, Oxford, Basil Blackwell, 2nd ed.   4.2.6.7. 翻訳文献  外国語から翻訳された文献を参照した場合は、まず文献の原題を示し、次に訳者と翻訳題名 、出版社、出版年を示す。 Lakoff, G. (1987) : Women, Fire, and Dangerous Things, Chicago, The University of Chicago Press. 池上 嘉彦他訳『認知意味論 - 言語から見た人間の心』紀伊國屋書店、1993  
   
5. 付録 : 文献をどうやって入手するか    文献探索の方法は上で述べたが、ここでは実際にどのようにして文献を手に入れるかを説明 する。   5.1. 本部の附属図書館・総合人間学部図書館にある場合  まず探している文献が図書館にあるかどうかを、OPAC (Online Public Access Catalog)で検索す る。OPACは文科系の学生にとって最も重要な情報ツールである。使い方には習熟する必要が ある。ただしOPACには1985年以降の受け入れ図書しか入力されていないので、図書カードも 必ず合わせて検索すること。  本部の附属図書館・総合人間学部図書館に文献がある場合は、直接に閲覧・貸し出しができ る。   5.2. 他学部の図書室にある場合  文献が他学部の図書室に所蔵されている場合は、総合人間学部で「相互貸借利用証」を発行 してもらってから借りに行く。   5.3. 文献が学内の図書館にない場合  他大学の図書館のどこにどの雑誌が所蔵されているかは、『学術雑誌総合目録』(和文編と 欧文編とに分かれている)を利用すればすぐにわかる。また図書館のカウンターで学術情報セ ンターのOPACを検索してもらえば、より確実にわかる。  他大学の図書館に目的の文献がある場合、「文献複写依頼」を出すことになる。コピー代 金と送料というわずかな金額でコピーを送ってもらえる。通常1週間から10日くらいの日数が かかる。「文献複写依頼」は総合人間学部図書館でも受け付けている。  また他大学の図書館から単行本の現物を送ってもらうことも可能である。この場合には現物 貸借依頼を附属図書館カウンターで申し込む。送料だけは自己負担となる。   5.4. 文献が外国の図書館にある場合  アメリカの図書館に所蔵されている雑誌文献についは、インターネットを通じて電子メール で申し込むとコピーを送ってくれるサービスもある。しかし学部学生にはやや難しいので、指 導教官に相談するのがよい。   5.5. 海外の未刊行博士論文の場合  未刊行博士論文を入手するには、次のような方法がある。 ・University Microfilms International を通じて  UMIのリストに掲載されている論文の場合は、直接注文することができる。 ・雄松堂書店を通じて  UMIへの直接注文が難しい場合は、雄松堂書店が代行サービスを行っている。ただし論文1点 につき、¥8,000から¥10,000くらいかかる。   5.6. 文献がどこにも見つからない場合  研究者のあいだでは、入手困難な文献はコピーで融通しあっていることが多い。人的ネット ワークで手に入る文献もあるので、指導教官に相談すること。   5.7. 文献を探すための参考文献  文献の探し方を解説した本には次のものがある。 ・池田祥子(1995) 『文科系学生のための文献調査ガイド』青弓社 ・斉藤孝、佐野眞、甲斐静子(1989) 『文献を探すための本』日本エディタースクール出版部    コンピュータを用いた文献情報検索を解説した本に次のものがある。 ・安永尚志(1996) 『文科系のための情報検索入門 ム パソコンで漱石にたどりつく』平凡社  
   
【参考文献】    最後に卒業論文を書くための参考文献をあげる。   ・栩木伸明 (1995) 『卒論を書こう - テーマ探しからスタイルまで』三修社  英文科の卒論の書き方を例に解説しているので、語学の卒論にも参考になる。テーマの選択 の仕方から始まって、わかりやすい書き方をしている。論文スタイルも詳しい。   ・Gibaldi, J. and W. S. Achtert (1988) : MLA Handbook for Writers of Research Papers, The Modern Language Association. 原田敬一訳『MLA論文の手引き』第3版、北星堂、1988  MLAの英語論文の書き方の公式手引き書。MLAスタイルはアメリカの標準となっているので 、英語で論文を書く場合はこれに準拠するのがよい。   ・Turabian, K. (1973) : A Manual for Writers of Term Papers, Theses, and Dissertations, Chicago, The University of Chicago Press. 高橋作太郎訳『英語論文の書き方』研究社、1980  MLAと並んでもうひとつの標準的な論文の書式であるシカゴスタイルの手引書。   ・斉藤 孝 (1996)『学術論文の技法』増補版、日本エディタースクール出版部  テーマの設定、文献の探索、論文の構成、注の書き方と一通り解説していてよくまとまった 手引き書。初版が1977年と古いので、あげられている参考文献があまり役に立たない恨みがあ る。   ・R. フライ『アメリカ式論文の書き方』東京図書  論文執筆にいたるまでの過程をとてもわかりやすく説明している。書き方の平易さで群を抜 く解説書である。   ・木下是雄 (1996) 『理科系の作文技術』中公新書 (初版1981年)  学術的な文章に求められる客観的で明晰な文章の書き方を解説した名著。理科系となってい るが、すべての学問に通用する内容である。ぜひ一読を勧めたい。目からうろこが落ちること 請け合い。   ・中尾浩、伊藤直哉、逸見龍生『マッキントッシュによる人文系論文作法』夏目書房  パソコンの Macintosh を用いて論文を書くことを目的として、ワープロ Nisus Writer, アウト ライン・プロセッサ More, 書誌データベースソフト End Note、データベースソフト File Maker Proを統合した環境を解説している。   ・木村 泉 (1993) 『ワープロ作文技術』岩波新書  ワープロを用いて文章を書く技術を、アイデアの発想からまとめ方、言葉遣いまでていねい に解説したもの。非常に参考になるので一読を勧めたい。   ・追村純男、J.Raeside 『英語論文に使う表現文例集』ナツメ社  英語で論文を書く場合に用いる決まり文句の文例集。非常に役に立つ。英語以外の言語につ いてもこういうスタイル集のようなものが是非欲しいものである。   ・崎村耕二『英語論文によく使う表現』創元社  上記文献と同趣旨の本。内容はよく似ている。  
論文の書き方リンク集 ・
卒論の書き方リンク集  東洋大学国際地域学部の竹内章悟さんのサイト。卒論の書き方関係のサイトが10以上リスト されている。